ripples

なんともない日

ある教授との何ともない話

自分の年齢をふと冷静に眺めて、失望すること、いろんな思い出があったなと懐かしむこと、満足気な気持ちになること、未来に希望を抱くこと、それらはその時によってはちがうけど、だいたい順繰りに回ってきて、それを繰り返す。だけど、今日の夜だけは少し違った、

自分に残された20代を数えるうち、ある人の顔が思い浮かんだのだ。

 

彼は大学の准教授(以下教授)で、自分が大学生の時に1番深く接した教授。とは言っても、ろくに勉強をしていたわけではないから、学問的にお世話になったわけではない。初めて会ったのも4年の時。僕は学内アルバイトの一環で、彼の持つゼミの補佐をすることになった。

 

初めて顔を合わせる時、どんなおじさんかと身構えていたが、予想はそこから間違っていた。

彼はまだ20代後半だった。カジュアルだが清潔感のある服、黒縁のメガネ、整理された口髭。フランクな印象な風貌と口調、それでいてこっちの浅い人間性を全てを見透かしてくるような雰囲気があった。結局今もどういう性格の人なのかよくわからないまま。

 

教授の部屋には統一性が無かった。

ホワイトボードにはよくわからない小難しい数式が書いてあって、テーブルの上にはメモや締め切りが書かれた付箋が散乱していた。

そしてその横のテーブルには難易度の高そうなパズルやら、精密なジオラマが置かれていた。

Amazonから届くものは僕の知る限り、大体はそれに合体させるパーツの一部だった。

酒癖は悪い、学生と飲み会をした時は自分が飲ませたくせに吐いてる学生を連写して笑っていた。まぁ無理やり飲ませたわけでもないのだが。ゼミで行った上海でもはぐれた男3人を1日放置してみたり。まぁそんなでも、なんの問題もなく彼らは帰ってきて解決していたので、必要な時に必要なだけの立ち回りができる人なんだと思う。(まだ、大学の教授のところに名前あったし)

 

2人で話す時は雑談が多かった。好きなアニメや、映画、そして動物。彼が1番好きな動物は更新されていなければウォンバットだ。飲んでいても飲んでいなくても、ウォンバット可愛いだけは連呼していた。

 

彼は追われるように仕事を詰めていた、

追われるというか、自分で追い込むように。そして、今自分はそうすべきだと言っていた。

よくこんな遊び道具満載の部屋で集中してるなと思っていたけど、息抜きやいろんな配分が上手いのだ。

理知的な面と、ブラック寄りの独特のユーモア。自分の考える大人像とは全く雰囲気の違う人だった。個性豊かな大人の面々が我が人生に登場するのだけど、彼はその最初の1人だったのかもしれないと思う。

 

今となっては連絡を取り合うような間柄でもないし、あっても話せること、報告できる事はまだ何一つない。

でも、この文を書いた後、「何」の前に「まだ」を付け足すことにした。人生で後、一度くらいは話がしてみたい。その時が訪れれば良いなと思う。願ってるだけでダメだとは思わない、今といつかの自分が必ずそこに連れて行ってくれるだろう、なぜかそんな風に思うのだ。